院長コラム

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Doctor’s Column

運動こそ健康の基本…「1回15秒」トレーニングのススメ 2020/1/17

運動機会の激減で、子どもたちにまで広がる「健康不安」

私は若いときから体を動かすのが好きで、大学時代は勉強よりもむしろスポーツに熱中していました。運動の何が心地よいのかといえば、思いきり体をいじめたあと、その疲労や消耗感から回復していくときに「いのちの手ごたえ」を実感できることです。

人間には体を動かすこと、あるいは、疲れた体が回復していくことを「快い」と感じる本能がそなわっています。思いきり体を動かす、早く走る、高く飛ぶ。そういうことに快感を覚える運動本能がわれわれのDNAには刻み込まれているのでしょう。

ところが、その先祖から脈々と受け継がれてきた運動本能が今、危機を迎えています。運動する機会の激減などが原因でメタボリックシンドロームや糖尿病などが大人だけでなく、代謝機能が高いはずの若者や子どもの間にもひろがっているのです。

メタボの直接要因となるものは何か。いうまでもありません。カロリー過多の食事と運動不足です。現代人の運動習慣や運動能力はむかしにくらべれば相当劣っているのはまちがいないのです。

「メタボの診断基準なんてあやしいものさ」そう太鼓腹をさすりながらうそぶく人もいますが、ウエスト何センチ以上という一律な診断基準が適切かどうかはべつにして、やはり健康のためにはメタボを改善するに越したことはありません。メタボ状態が長く続く人は「年をとりやすい」ものです。運動機能だけでなく内臓の老化も早く進むからです。

私の病院で開業以来、毎年、健康診断で胸のレントゲン写真を撮っている人が何人もいますが、運動と食事のコントロールによってメタボ改善に成功した人の写真を当初のものとくらべてみると、雲泥の差である場合が多いのです。

最初のころは〝だらり〟としていた心臓がきゅっと締まって非常に若々しくなっている。むろん、ほかの内臓の調子もいいし、いろいろな検査値も好転している。運動が全身の健康に果たす役割はきわめて多大なものがあります。

五十肩の大半は「動かしていない」ことが原因

「先生、五十肩でひどく痛むんですが」そう肩をさすりながら訴える患者さんも少なくありません。しかし、五十肩の大半は「動かしていない」ことが原因なのです。

すべての関節には可動域があって、どこまで動かせるかが生理的にだいたい決まっています。その関節の中で肩は可動域がもっとも大きい部位です。非常に大きく動かせる関節であるがゆえに、ふだんからよく動かしていないと、その健全性が保てない部位でもあるのです。つまり、肩痛の要因の多くは運動不足による血流の停滞であり、したがって五十肩なんか動かせばたいてい治ってしまいます。

また、お年寄りの転倒、骨折もひんぱんに起こる事態で、運動機能の衰えがその引き金となります。といっても、お年寄りのすべてが転んで骨を折るわけではありません。日ごろ運動の習慣がない人、歩かない人というのはやはり筋力も弱り、骨密度も減るので転倒、骨折しやすいのです。

ただ、骨がもろくなっているというと、判で押したように「カルシウムを摂取しなさい」と忠告する医者がいます。国もなぜか、あらゆる栄養摂取量の中で不足しているのはカルシウムだけだから積極的に摂りましょうとすすめています。

でも、私はそうは思いません。カルシウムはふつうの食生活をしていれば食べものから必要量は十分に摂れるからです。やたらと小魚をかじったり牛乳をガブ飲みしたりして、過剰に摂取する必要はまったくないのです。

むしろ、カルシウムの過剰摂取は結石の要因になる、動脈硬化を進める、腎臓機能に障害を与えるといったデメリットをもたらしやすくなります。少なくとも、カルシウムの摂取が転倒による骨折防止に役立つ万能策であるかのようにいうのは、人びとの健康意識をミスリードしてしまう結果にもなりかねません。それよりも効果的なのは運動です。毎日、少しの運動を心がけることによって転倒も骨折も十分に防げるものなのです。

どんな筋力トレーニングも「15秒」を目安に行うのが効果的

衰えた運動本能をどうやって鍛えるか。それにはまず、筋力トレーニングと歩くことを2本柱にした運動を日常の中で習慣づけることです。といっても、激しい運動はまったく必要ありません。生活の範囲内で「ちょっと体を動かす」程度でいいのです。

ストレッチ系の運動は生活の範囲内で行える軽い運動の代表格です。筋肉を伸展させるストレッチには血流の改善や脳の覚醒にも効果を望めます。たとえば朝の起床時、昼の3時ごろ、夜の就寝前にストレッチをすると、目覚め、眠気覚まし、安眠の効果があって、1日をすっきりと快適に過ごせるようになるはずです。

また、エレベーターを使わず階段をストレッチしながらゆっくりと上がる方法はおすすめです。腹部に力を入れ、腿に体重をかけて、ふくらはぎやアキレス腱を伸ばすようにしながら上るのです。私自身も実践していますが、筋肉量の増加が基礎代謝を増やす効果をもたらしてくれます。

あるいは、片足立ちトレーニング。下半身には太腿を中心にたくさんの筋肉が集まっているので、下半身の筋力向上による転倒防止や心臓機能の強化につながります。

トレーニングの種類や体の部位を問わず、より効果的に筋力トレーニングを行うときのポイントを紹介しておくと、筋力の限界の3分の2程度の負荷を短い時間(15秒くらい)かけるのが基本です。それを4~8回くらい(1~2分程度)行うのをワンセットとして、1日、朝と夜の2回か朝・昼・夜の3回行う。それを週に3日くらい実践すれば、2~3ヵ月のうちに、筋力が1~2割アップするはずです(毎日よりも1日おきくらいが疲労物質が溜まらず効果的)。

このときキーポイントとなるのは、1回分の負荷をかけるときの15秒という時間です。なぜ15秒なのか。筋肉を伸縮したときには、「今伸ばしてるぞ」「こんどは縮めてるぞ」という信号を筋肉内にある筋紡錘の神経受容体が受け取って脳へ送ります。脳がその信号を十分に受信しないかぎり、運動効果は思うように上がらないのです。15秒はその信号を確実に受信するのに必要な時間なのです。

したがって、どんな筋力トレーニングも15秒を目安に行うともっとも効果的になります。コラム『「睡眠時無呼吸症候群」を改善する、1日1分トレーニング』でご紹介した、いびきや睡眠時無呼吸症候群を防ぐ舌出し運動もやはり15秒が基本だったことを思い出してください。あらゆる筋力トレーニングは15秒を一単位として、限界の3分の2の負担をかけるのが重要ポイント。これをよく覚えておいてもらいたいと思います。

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎