院長コラム

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Doctor’s Column

免疫力を高めたい人にベテラン医師が「腹巻き」を勧める理由 2020/1/17

免疫力を保持するのに必要なのは「体温を上げる」こと

老人ホームで出される食事には入居者のお年寄りたちのためにさまざまな工夫がしてあります。たとえば、汁ものには片栗粉などでとろみをつけ、無理にすすらなくても、ものをスムーズに飲み込めるような工夫をしているのです。これは、お年寄りたちの誤えん(口に入れた食べものが食道ではなく、誤って空気と一緒に気道へ入ってしまうこと)を防ぐために行われています。

お年寄りにとって誤えんが恐ろしいのは、それが引き金となって肺炎になりやすいからです。じつは、高齢者の死亡要因の上位にはかならず肺炎がランクインしており、私の専門である人工透析の患者さんでも以前は死因のトップは心不全でしたが、今は感染症が心不全とほぼ同数となっています。そして、感染症はそのほとんどが肺炎、とくに誤えん性の肺炎が非常に多いのです。

誤えん性の肺炎は、食べものに含まれていた雑菌が気管や肺に入ってしまったり、あるいは口中を清潔に保っていない場合、唾液の中に含まれていた雑菌が寝ている間に唾液とともに気管へ入ってしまうことで発症します。こういうケースはご老人にきわめて多く、通常は体が弱っていたりしないかぎり発症しません。

健常な人が誤えんをしてもめったに肺炎までいたらないのは、体内に侵入してきた異物をやっつける免疫力が働いてくれているからです。

免疫は「外敵から防御する」体の仕組み(機構)のことですから、厳密には本能とはいえないかもしれません。ただ、あらかじめ体に備わっている能力という点では同じですから、ここでは生体における生得の防御力という意味で免疫本能という言葉を使うことにします。

免疫本能(免疫力)を高める方法は驚くほど簡単です。免疫力が弱まったときに現れやすい典型的な病気――カゼを例にご説明しましょう。

まず、湿気を保つことです。その理由はふたつあるのですが、ひとつはカゼなどの病気の原因となるウイルスが湿気に弱いからです。

すでに述べたように、カゼは免疫力の低下が引き金になることが多い典型的な病気のひとつですが、原因となるウイルスは200種類以上もあるといわれ、鼻や喉の粘膜に取りついて炎症を起こします。そこに口内などの細菌が取りついて繁殖すると、場合によっては肺炎にまで症状が進んでしまうのです。ですから、炎症を起こさせないことが必要で、湿気によってそれを防ぐわけです。

2つ目の理由は、気道を乾燥させないためです。

カゼと肺炎の関係をここでざっと説明しておくと、部位的に見ると、カゼはだいたい気道の上部(上気道)の感染症をさします。その感染が下気道まで進んで気管支を侵すと気管支炎になり、さらにその先の肺胞にまで達すると肺炎を起こすのです。だから、同じウイルスがカゼを引き起こし、それが悪化して肺炎まで至ることもあれば、誤えんをきっかけにカゼを経ずにいきなり肺炎になってしまうこともあります。そして、それらを防ぐためにも、気道を乾燥させないことが効果的なのです。

カゼウイルスには基本的に治療薬がありません。カゼの症状を抑える対症療法薬はあっても根治させる特効薬はないのです(カゼの一種であるインフルエンザには治療薬はありますが、そのほうが例外的です)。したがって、カゼを防ぐには何より湿気を保つことが肝心になってきます。

さらに免疫力を保持するのに必要なのは「体温を上げる」ことです。免疫機能を担う主役は血液内の白血球ですが、その働きを高めるには温度が高いほうがいい。体温でいえば38度~38度5分くらいが最適なのです。カゼをひくと、それくらいまで体温が上昇することもありますが、免疫のためにはじつは、その程度に「高熱」のほうが好都合なのです。つまりカゼをひいて体温が上がったら、上がったままにしておいたほうが免疫力は上がるのです。

それを熱が出たからといって市販薬などで無理に下げると、免疫の働きが低下して、かえってカゼの治りは悪くなる。39度を超えるような高熱は熱中症と同じで体温中枢をやられますから人為的に下げる必要がありますが、それ以下だったら、薬に頼らず、頭や首を冷やす程度でいいのです。

免疫の働きの9割は「腹部」で行われている

だからといって、わざわざカゼをひいて熱を出すわけにもいきません。そこでふだんから「体を温める」習慣をつけておきましょう。とくに効果的なのはお腹を温めること。なぜなら、免疫の働きの9割は腹部で行われているといっても過言ではないからです。

白血球のひとつのマクロファージという細胞は、外部から侵入してきたウイルスと接触して「敵が来たぞ」という信号をリンパ球に送る役割を担っている免疫機能に不可欠な細胞なのですが、その90パーセントはお腹の中(腹腔内)に集中しています。

生体にとっての外敵の大半は食物にまぎれており、その食物を吸収するのは腹腔内にある小腸ですから、敵まで吸収してしまわないようにマクロファージが腹腔内で門番をしているわけです。このマクロファージの働きを衰えさせる主要因は「冷え」、お腹の温度が下がったときです。だから免疫本能を保持、アップするには、腹部を温めるのが何にも増して効果的といえます。

そこで、私がすすめるのは腹巻きです。私の病院で人工透析を受けている患者さんは常時、150人くらいいます。そのうちご高齢の方を中心に5~10人くらいの方が残念ながら、冬場の寒い時期に亡くなってしまうことが多いです。

原因はやはり肺炎などの感染症がほとんどです。そこで私は、秋から冬にかけて「腹巻きキャンペーン」をしました。ご高齢で体力の衰えている患者さん、合併症を起こしている患者さんなどに対して、しつこいくらい「腹巻きをしてください」とすすめたのです。自分でも腹巻きをして、「ほら、こんな具合に」と患者さんに見せもしました。その結果、どうなったか。真冬から春にかけて、1人の死亡者も出なかったのです。例年、5~10人はいる死亡者がゼロだった――。

これには私自身も驚きましたが、お腹を温めることがいかに免疫本能を高めるか。その事実を示す有力な傍証といえましょう。体温を上げると健康になる。その秘密は免疫力の向上という本能の働きにあったのです。

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎