院長コラム

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Doctor’s Column

①「生活リズムの調整」と「空腹の体感」で生命力を活性化する方法 2020/4/23

死に直面して気づいた、生きることの「逆説的な意味」

私は10年ほど前、睡眠中にベッドから落下して頭を強く打ったことから、慢性硬膜下血腫という、死んでしまうこともある重い病気を起こし、緊急手術を受けたことがあります。

頭蓋骨にドリルで穴を開け、脳に溜まった血を洗い流すという手荒い手術を、局所麻酔で行いました。手術中にも意識があり、ドリルが頭蓋骨を掘削(?)するガリガリという音を聞きながら、「先生、少し痛いですね、もうちょっと麻酔を強くしてもらえませんか」などという話を担当医と交わした記憶があります。

さいわい手術はうまくいき、今もこうして生きながらえていますが、手術の最中、いのちの瀬戸際に立たされている恐怖感はふしぎと稀薄でした。妙にさめた気持ちで「助けてもらえないかぎりオレは死ぬな。ま、それでもいいか」と思っていたのです。

それは、頭蓋骨と脳の間に血が溜まるという危機的な状況に陥ったことが、「いのちのメカニズム」を作動させ、意識や知覚の働きをおのずと低下させて死への恐怖をやわらげてくれた――医学的な根拠とはべつに、本能的にはそんなふうにも解釈できます。

この体験からも、実際に死に臨むときには死を迎える本能が働くから、生の側から事前に考えているほど、死は苦しくもなければ怖いものでもない。私はそんな実感をもっているのです。

では、その死へ向かう本能をちゃんと作動させるためにはどうしたらいいのでしょうか。逆説的になりますが、その死へ至るまでの長いプロセス、すなわち人生というものをきちんと生きることが必要です。生命はかならず滅びます。死なないいのちはひとつもありません。そうである以上、死を前提として生きることが生きものの努めであり、人間らしい生き方でもあるはずです。

ちゃんと死ぬためにはちゃんと生きなくてはいけない。きちんと生きた人だけがきちんと死ぬことができる――死へ向かう本能を十分に発現させる前提条件としても、私たちは生きているときに「生きる本能」を十二分に働かせなくてはならないのです。

健康的な生活を送るための10のポイント

前掲のコラム『健康と幸福のカギ…生命力を司る「3つの本能」とは?』では、健康と長生きを可能にする本能の働きを11の種類に分けて、それぞれの内容や特徴、その活性化の方法などについて述べてきました。そこで述べたとおり、人間の本能には低次本能から高次本能まで段階があり、それは大きく反射、習性、知性の3つの階層に分けられます。

ただ、いうまでもなく、すべての本能はひとつの個体の生命活動の中で同時多発的に発現しているもので、種類別やカテゴリーごとにべつべつに働いているものではありません。あらゆる本能は階層や種類を超えて、ある本能を鍛えることが他の本能を高めることにも通じるといった強い関連性で結ばれているのです。

呼吸本能を整えたことがストレス解消につながり、ストレスが解消されると睡眠本能が満たされて不眠が快方に向かい、それが排泄本能にも好影響をおよぼして便秘が治る。便秘が治ると、胃腸の内部環境も改善されて消化吸収本能が上がるだけでなく、免疫本能の向上にも効果がある。

そんなふうに、本能の働きはすべて「つながっている」のです。つながっているということは、本能を鍛えるのにどの本能から始めてもいいということです。本能を鍛えるのに、かならずしも低次から始めてじょじょに高次へという段階を踏む必要はありません。どこから鍛えても健康への効果があり、また、それぞれ個々の効果が全体へも広がっていくのです。

つながっている。だから、どこから始めてもいい――このふたつの特徴を理解してもらったところで、ここでは「本能の力を引き出す」方法をあらためてまとめておくことにしましょう。これまで個別に紹介してきた内容も少なからず含まれていますが、本能の全体的な活性法として、以下の10の方法についてひとつずつ説明を加えてみます。

①生活のリズムを整える
②空腹を感じる生活をする
③適度な禁欲を心がける
④適度な運動を実践する
⑤沈思黙考の時間をつくる
⑥芸術を鑑賞する
⑦大自然の中に入る
⑧リラックスできる環境をつくる
⑨食事(栄養)を見直す
⑩病気を治療する

ここでは、「①生活のリズムを整える」「②空腹を感じる生活をする」について解説しましょう。

①生活リズムを整えよう…「食事・睡眠・排泄」を規則的なリズムでこなす

指摘するまでもなく、食事、睡眠、排泄といった生命と生活を支える根源的な活動を規則的なリズムでこなすことは健康長寿にとって必要不可欠の条件です。

忙しい毎日に追われていると、私たちはときにつぎのような夢想をすることがあります。「食べたいときに食べて、寝たいときに寝て、出したくなったら出す。そんな自由な生活をしてみたいものだ」
しかし、そんな放恣な生活も2日、3日ならいいのですが、ずっと続けば、それが肉体的にも精神的にも快適なものでないことに気づくはずです。何より不規則なリズムが本能の力を低下させ、心身の「健やかさ」を失わせてしまうのです。

3つのリズムの中でも、とくに重要なのは睡眠リズムを整えることでしょう。睡眠をつかさどるサーカディアンリズムは生体の活動と休息を根本で担っている生命リズムそのものですから、これが乱れることは食事や排泄のリズム、体温の調節などにも悪影響を与えてしまいます。

また、サーカディアンリズムの乱れが呼ぶ睡眠の不調は何も不眠ばかりではありません。逆に、体が欲するよりも睡眠時間が長くなってしまうこともあるのです。

その場合、長く寝てもリズムの乱れは調整されませんから、起床後も疲れやだるさが抜けず生活の質が落ちてしまう。ふだんより長い睡眠時間で、かつ、起きている時間の質も悪いのでは〝人生の損失〟以外の何ものでもありません。

不健全な眠りの時間が1日2時間あるとすれば、その人は1日につき2時間も「生きていない」時間を過ごしていることになる。1日過ぎるたびに2時間寿命を損しているようなものなのです。

したがって睡眠リズムを基本に、食事や排泄などの生活リズムを規則的に整えることは本能の活性化はもちろんのこと、人生を充実させるのにも欠かせない必要条件といえます。

②「空腹感」を大切に…空腹は人間の精神活動をも活発にする

お腹が空けば、その生命の危機感から、人間は嫌でも空腹を満たすための手だてを考え、食料を獲得すべく行動を起こします。また、どうすれば効率的に食料を得、おいしく食べられるかという知恵や知性も発達します。

つまり、空腹が「意欲」を生み、人間の精神活動をも活発にしてくれる。したがって人間が進化をしてきた過程で、つねに空腹感が大きなテコになっていたはずです。

人間が本来もっている能力を全体的に底上げして生命力や健康の基点となる。空腹感にはそのような働きがあります。一方で、満腹感はその反対です。

ですから、体のみならず心の健康にとっても、腹七分~八分を保つか、お腹いっぱいまで食べてしまうかは大きな分岐点になります。

ネズミを使った実験で、腹七分まで食べさせたネズミと腹いっぱいまで食べさせたネズミとでは、あきらかに前者の寿命のほうが長いという結果が出ています。少しの空腹感を保つ食生活をしたほうが健康で長生きが可能になるのです。

過食は肥満や高血圧のほか、血中に老廃物をたくさん出すので血管も傷めやすいです。一方、現在の人間の体の機能やさまざまな本能の働きは、すべて基本的には「食べるものがない」飢餓状態の時期にそなわったものです。

つまり、空腹を前提に生体活動が行われるようにつくられている。空腹を感じる生活が体の健康や本能の働きを向上させることは、歴史的にも生理的にもしごく当然のことといえます。

では、空腹感は人間の体にどんな作用をしているのでしょう。それはずばり、空腹を感じているときは体内に蓄えられたエネルギーが燃えているときなのです。

食事を通じて外から入ってくるはずのエネルギーを体内の貯金から取り崩している。空腹とはそんな状態のことで、その分、脂肪が燃えています。脂肪が燃えれば熱になります。つまり体温が上がって、免疫力の向上をはじめさまざまな効果を体にもたらしてくれるのです。

ところが、このエネルギー(脂肪)の蓄積にはマイナス作用があります。脂肪には内臓脂肪と皮下脂肪のふたつがあることはご存じだと思います。このうち女性に多い皮下脂肪はいいのです。一方、男性の体に溜まりやすい内臓脂肪は燃焼しやすいという性質がありますが、内臓脂肪の過剰蓄積はそれ自体が糖尿病や脂肪肝の原因となっている悪者なのです。

すなわち、皮下脂肪は溜めても害にならない一方で、内臓脂肪は燃えやすいが溜めてしまうと糖尿病や脂肪肝の原因になったり、血中コレステロールを上昇させたりしてしまいます。空腹状態はエネルギーを燃やしてくれますが、そのときエネルギーとなる内臓脂肪の蓄積にはマイナス面もあるわけです。

そのデメリットを消しながら、内臓脂肪を安全に効率よく燃やす手だてはあるのか。その方法として有効なのが筋力トレーニングなのです。筋肉はエネルギー消費の場で、筋肉を増やせば、今述べた悪影響を避けつつ内臓脂肪を溜めずに燃焼することが可能になるからです。

食事制限だけのダイエットが「健康的」ではない理由がこれで、ダイエットは本来、運動と食事の両面から行わなくてはなりません。

その健全な空腹感を保つために、私が1日に1食半程度の食事ですませていること。あるいは、日常生活の中に筋力トレーニングを取り入れていることや、その具体的な方法についてはすでに紹介したとおりです。

ここで食事について簡単におさらいしておくと、朝は軽くすませ、昼は〝おやつ〟程度、夜はリラックスして好きなものをゆっくり食べる。この基本ラインを守っています。

具体的には、朝はバナナ1本とコーヒーや食パン1枚と卵など(300~400キロカロリー程度)。昼は空腹を感じたときにチョコレートやクッキーなど少量で血糖値をすみやかに上げる食品を食べる(200キロカロリー程度)。夜は栄養のバランスを考えたメニュー(1000キロカロリー程度)。

こうした内容の食生活を実践していれば、トータルでつねに腹七分~八分がキープされ、「空腹を感じる生活」が可能になります。ひとつの参考例として、みなさんも、本能の向上に役立つ食事法を工夫してみてください。

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎