院長コラム

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Doctor’s Column

③「芸術・自然」への親しみと「リラックス」で生命力を活性化する方法 2020/4/25

前掲のコラム『適度な「禁欲・運動」と「沈黙思考」の習慣で生命力を活性化する方法』に引き続き、本能の全体的な活性法として以下の10の方法について説明します。

「本能の力を引き出す」方法

①生活のリズムを整える
②空腹を感じる生活をする
③適度な禁欲を心がける
④適度な運動を実践する
⑤沈思黙考の時間をつくる
⑥芸術を鑑賞する
⑦大自然の中に入る
⑧リラックスできる環境をつくる
⑨食事(栄養)を見直す
⑩病気を治療する

ここでは、「⑥芸術を鑑賞する」「④適度な運動を実践する」「⑦大自然の中に入る」「⑧リラックスできる環境をつくる」について解説します。

⑥芸術を鑑賞…潜在能力を引き出し、人生に豊かな彩りを

音楽、絵画、文学などのすぐれた芸術は感性を鋭く刺激し、人間の理性本能や創造本能に強く訴えかける力があります。自分自身すら気づいていない潜在能力を引き出してくれ、人生に豊かな彩りを与えてくれます。

私自身の例でいえば、小学生のときに初めてクラシック音楽を生で聴きました。演目はベートーベンの合唱つきの『第九』でした。私はじっとしていることが嫌いなわんぱくでおしゃべりな子どもでしたが、そのコンサートには非常に感銘を受け、圧倒された思いで身じろぎもせず音楽に聴き入っていた記憶があります。以来、すっかりクラシック音楽のファンになり、レコードなどもよく買い集めたものです。今でも音楽を聴いているときだけでなく、散歩や沈思黙考をしている最中に楽想や旋律が浮かんでくることがあります。

もちろん素人の域を出るものではありませんが、曲の大まかな構想とかメロディの一部がなんとなく頭にわいてくるのです。拙いものではあっても、それは自分の中に秘められた能力のあらわれであり、実際に音楽にふれることがなければ表面化されなかった能力であったはずです。

このことは文学や絵画など他の芸術についても同じようにいえるでしょう。芸術を生で鑑賞する――知識として知るのではなく、コンサートや展覧会などへ実際に出かけて自分の五感を動員しながら芸術を体感する。その体験が自分の感性や創造性に無限に近い影響を与えてくれるのです。心を揺さぶり、感情を潤わせ、精神活動を活発にして、あなたの「人間」に深みや奥行きを授けてくれる。そんな効果が芸術にはあります。

仕事に追われ、生活に追われて心が乾いたような気のする人はぜひ、忙しい時間にやりくりをつけてコンサート会場や絵画展に足を運び、すぐれた芸術に自分の目や耳や全身でふれる機会をつくるよう心がけてください。そうすれば、本能も生き生きと動き出すはずです。

⑦大自然の中に入る…根源的な「生のよろこび」を味わおう

すぐれた芸術には人間の喜怒哀楽、知性や理性が凝縮されているものですが、その芸術にふれたときの感動をさらに上回るものがあります。それは、自然の中に身を置いたときに感じるより根源的な「生のよろこび」です。

音楽や絵画はいかにすぐれたものであろうと、それが人間の手でつくられたという意味では「人工性」を免れません。しかし、自然の景観や営みの美しさ、力強さがもたらす圧倒的な感動は人間を根底から解放し、心をきれいに浄化してくれる効果があります。

頭や感覚による理解や知覚のレベルを超えて、直接、本能に訴えかけてくるような単純で力強い原始的な感動。本能それ自体がふるえるような深いよろこび。そういうものが海や空や森などの大自然にふれたとき、抱かれたときに体の奥のほうからわいてきます。それが本能の力や働きを活性化しないはずがありません。

なるほど、自然の代替物は都会にもたくさんあります。でも、いくら東京スカイツリーが高くて見晴らしがいいといっても、山に登って頂上で四方を見渡すときの心地よさにはかないっこありません。テーマパークの中にしつらえられた人工の海には潮風や磯の香りもなければ、夕陽が燃えながら沈んでいく雄大な景観も望めません。海から得られる感動は当然ながら、ほんものの海へ行かなくては得られないのです。

私には以前、大地震と大津波でたいへんな被害をこうむる前の東北地方の海岸沿いをオートバイで走った経験があります。晴れわたった大空の下、右手に広大な海と水平線を望み、かぐわしい潮風を肌に感じつつ、バイクにそなえつけたスピーカーから流れる音楽を聴きながら走る感動と快感は最上のものでした。

「生きていてよかった」という思いが心と体の奥底からわき上がってきたのです。それはくり返しになりますが、本能そのもの、生命それ自体がよろこんでいるような深く強い感動でした。そこには、やや大げさにいえば、アフリカのサバンナ地帯から出現し、長い時間をかけて進化、発展してきた人類のDNAの遠い記憶にふれるようななつかしさ、解放感がありました。

大自然にふれること、大自然の中に身を置くことは、多様な進化を遂げてきた人間の本能の「原形」に出会う体験をすることでもあるのです。その機会をやはり、私たちは忙しい生活の中にももちたいものです。

⑧リラックスできる環境をつくる…健康面で重大な影響も

自然にふれる効果とは、ときに生活の環境を変えてみることの効果でもあります。環境を変える。すなわち日常生活と異なる時間や空間に身を置いてみることは本能の力を引き出すのにとても有効な方法です。

人は保守的な生きもので新しい環境へ移ることには臆病になりがちです。何につけ「変える」ことを嫌がる傾向があります。しかし環境を変えないままでは、新しい発想や創造的な仕事もまた生まれにくいものです。つまり人間の理性や本能の働きにとって、環境を変えること、自分を変えていくことはプラスの作用があるのです。

その一方で、体の健康のためには日常の生活環境を自分がもっともリラックスできる状態に保持しておくことも大切です。たとえば、自分の部屋を快適に整える。部屋の温度や湿度から、室内のレイアウトや壁の色、カーテンの模様まで、心地よく暮らせる個人環境をつくり、維持することです。とくに寝具など、睡眠にかかわる環境に気を配ることは重要になってくるでしょう。

本能の力を引き出す最初の条件として、食事、睡眠、排泄などの生活のリズムを整えることの大切さを述べましたが、その生活リズムを安定して保つためにもリラックスできる快適な住環境の構築は欠かせない要素となってくるのです。

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎