院長コラム

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Doctor’s Column

マラソンは逆効果!? 酷使しても「心臓は鍛えられない」という事実 2020/1/17

激しい運動は心臓に負荷をかけ、働きを弱めてしまう

「あいつの心臓には毛が生えている」「彼はノミの心臓の持ち主だ」などと、心臓という臓器はいいにつけ悪いにつけ、精神的なタフさのたとえに使われることが多いものです。しかし、それは身体的な比喩ではなく、事実そのものといえます。心臓の強い人は例外なく病気にも強く、健康、長寿の可能性を大いに有しているからです。

逆に、心不全などで心臓が弱っている人は他の病気への抵抗力が弱い傾向が否めません。その意味で、心臓に備えられている循環本能はやはり私たちの健康の鍵を握っているのです。

心臓の最大の働きはいうまでもなく、血液を全身に配送し、また回収する点にあります。呼吸によって肺に取り込まれた酸素は心臓の拍動によって血管を通じて全身へ送り込まれます。全身に血液を送る循環ポンプ、それが心臓の最たる役割なのです。

ほかにも利尿に関するホルモンを分泌したりもしていますが、心臓のもっとも大きな働きはそのポンプとしての機能で、その点では、臓器の中ではいちばんシンプルな働きをしているといえましょう。

したがって、循環本能を鍛えるということは、心臓の拍動を向上させることとイコールといえます。ただ、この「鍛える」ということを勘ちがいしている人が多いようです。心臓を鍛えること、すなわち心拍機能を上げること。それにはマラソンやパワートレーニングがいい――そんなふうに短絡して考える人が少なくありません。

じつは、心臓の機能を運動によって直接鍛えることはできないのです。むしろ、激しい運動は心臓に大きな負荷を与えてしまうため、かえってその働きを弱めてしまいます。

これは、車のエンジンにたとえるとわかりやすいかもしれません。車のスピードを上げることでエンジンの機能が高まるかといえば逆です。無理にスピードばかり出していると、エンジンの寿命は縮まり、故障しやすくなってしまいます。走りをよくしたいのであれば、燃費のいいオイルを使ったりタイヤを交換したりするほうが効果的で、その結果、エンジンも長もちするようになります。

同様に、心臓を酷使しても心臓を強化することはできず、かえって逆効果になってしまう。だから過度な負担は避け、心臓に「楽」に動いてもらうこと。それが心臓を鍛えることにつながり、長もちさせることにも通じるのです。

たとえば、冬の寒いときには心臓への負荷は大きくなります。寒いと末梢の血管が縮こまる。血管が収縮すると血管の抵抗が高まって血液が流れにくくなる。血流が悪くなると、それを解消しようとして心臓は一生懸命働く。それが血圧を上げて心臓の負担を増やすことになる、という図式です。

したがって、血管抵抗を下げて心臓の負担を軽減してやること。これが逆説的に「心臓を鍛える」ことにつながるわけです。

ちなみに心不全の治療薬には、血管抵抗を下げるための血管拡張剤のほかに、心臓の働きそのものを少しだけ弱める薬も使います。ポンプの通路の抵抗を下げることと、ポンプ自体の拍動能力を少しパワーダウンさせる。この両面から、心臓の負担を減らしてやるわけです。

心臓の拍動能力を高める「2つの方法」とは?

心臓を直接鍛えることはできません。となると、その拍動能力を高めようとしたら間接的な方法をとるしかないことになります。

そのために有効な方法の第一は、「体を温める」ことです。寒い時期には体を温める工夫をして、血管が収縮しないように(血管抵抗が高まらないように)心がけることが大切になってくるのです(くわしくは後ほど「免疫本能」についての説明の中で述べます)。

拍動能力を高めるもうひとつの方法は「筋力トレーニング(筋トレ)」です。こういうと、「今、運動で心臓を鍛えることはできないといったばかりじゃないか」と文句をいう人がいるかもしれません。しかし、心臓の機能を直接鍛えることはできなくても、全身の筋肉を強化することによって間接的に向上させることは可能なのです。なぜなら、筋肉には組織圧によって血液を心臓に戻してやる力があるからです。

心臓が血液を送り出し、回収するためのメインポンプなら、筋肉は補助ポンプの役目を果たしています。その補助ポンプの能力を高めてやれば、おのずとメインポンプに楽をさせることができる。すなわち、筋肉強化が心臓の負担減につながる――。

この理屈は、どなたにもすんなり納得いただけるでしょう。激しい運動はかえって逆効果ですが、適度な運動は心臓の循環機能の増強に役立つのです。体の筋肉が心臓の機能を左右する。この事実は一般にはあまり知られていないようですが、医者の間ではじつは常識中の常識なのです。

 

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎