院長コラム

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Doctor’s Column

ストレス耐性を高める「具体的な方法」3つ 2020/4/27

ストレスが「肥満・コレステロール過剰・糖尿病」などの引き金になることも

人間にかぎらずすべての生物には、体を一定の状態に保って健康を維持しようとする本能的な力がそなわっています。「恒常性(ホメオスタシス)」と呼ばれるしくみがそれで、夏の暑い日には汗をかいて体温の上昇を防ぎ、冬の寒い日には毛穴が縮んで体熱の放出を防ごうとするといった、外部の環境変化に対して体の内部状態を一定に維持しようとする生体反応や調節機能のことです。

外部環境の変化は、生物にとってすべてストレスになりうるものです。そのストレスに耐えて体を正常に保つ恒常性のメカニズムは、私たちの体の至るところに張りめぐらされています。

ほ乳類の場合、恒常性は神経や免疫、内分泌(ホルモン)の相互作用によって保持されています。たとえば、脳がストレスを感じると、脳の視床下部の脳下垂体という部位から「ACTH」というホルモンが分泌され、これが引き金となって、腎臓の上にある副腎から「副腎皮質ステロイドホルモン」を放出させます。

ACTHはいわばストレス促進ホルモンなのですが、外部ストレスによってACTHが分泌されると、すぐさま恒常性が作用して、ACTHの過剰な分泌を抑えるしくみになっています。負荷を感じるホルモンが体内で働きすぎないよう、負荷を取り除くホルモン、負荷に耐えようとするホルモンを放出することで、内部状態を一定に保とうとするわけです。

そのストレス対処ホルモンともいうべきホルモンが副腎皮質ステロイドホルモンで、血圧や血糖の状態を維持したり、免疫機能を保ったりしながら、ストレスに対する抵抗性を体に与えてくれるのです。

ステロイドという言葉は、どこかで目にしたり耳にしたりしたことがあるかもしれません。副腎皮質ステロイドホルモンの免疫抑制機能や抗炎症作用などに着目して、副腎皮質ステロイドが人工的につくられ、いろいろな薬に応用されているからです。たとえばアトピー性皮膚炎の薬にも副腎皮質ステロイドが含まれています。

ストレスを感じるとACTHが出て副腎を刺激し、副腎皮質ステロイドホルモンが出てストレスを抑える側に回る…。この恒常性の絶え間ない働きによって、私たちは常時ストレスに耐えたり、ストレスを処理したりしているわけです。

しかし、その恒常性のバランスが崩れると、さまざまなストレス性の病気や症状があらわれてきます。たとえば肥満やコレステロール過剰、あるいは糖尿病などもストレスが引き金になることが多いようです。副腎皮質ステロイドホルモンに食欲を亢進させる作用があるからで、ストレスから過食になり、肥満や糖尿病などの生活習慣病の原因をつくります。こういうケースはけっしてめずらしくありません。

また、ストレス促進ホルモンとストレス対処ホルモンのバランスが悪化すると交感神経が緊張します。そのことが胃の消化機能を低下させて胃炎や胃かいようを引き起こしたり、心臓の心拍に影響して高血圧や不整脈の要因ともなります。

私は自分の病院をつくることに関連して億単位の借金をしたことがありますが、その当時は、「1億円という金は年間200万円ずつ返済しても50年かかるぞ。果たして、このオレに返せるか」という重圧から血圧が跳ね上がり、不整脈も1分間に10回くらい出たほどです。ことほどさようにストレスが体の健康に与える影響は大きいものがあります。ストレスにまつわるホルモンのバランスは非常に微妙で、崩れやすいリスクにつねにさらされているといえましょう。

「記憶力を高める」「大脳を休める時間をとる」「(小さな)達成感を覚える」

では、ストレスへの耐性を高める具体的方法には、どういうものがあるのでしょう。

そのひとつは「記憶力を高める」ことです。記憶力とストレスは一見すると関係ないように思えますが、記憶能力にすぐれた人は同時に、「忘れる(切り替える)」こともうまいものです。脳がそういうふうにできているのです。

脳で記憶の蓄積や取捨選択を行っている器官は海馬ですが、海馬が活発に働くときには記憶を呼び出す信号のオン、オフがとてもスムーズに切り替わることがわかっています。つまり、「思い出す(記憶の貯蔵庫である大脳皮質から記憶を取り出してくる)」と「忘れる(大脳皮質に記憶をしまい込む)」、この2つの作用の使い分けが的確にメリハリをつけて行われるのです。そのスムーズな切り替えが気分転換につながって、上手なストレス解消法ともなるわけです。

私たちは忘れる力を意図的に養うことはできませんが、記憶力を鍛えることはできます。記憶力とともに「忘れる」という切り替え力も高めることがストレス耐性の強化に通じていくのです。

また、「大脳を休める時間をとる」こともストレス解消に有効な方法です。つまり睡眠時間を十分にとることです。人間は寝ないとストレスを消化することができません。脳というコンピューターは作動しっぱなしだとやはりパフォーマンスが落ちます。疲れたらリフレッシュが必要になってきます。その脳の休息に最適なのが睡眠なのです。寝不足や徹夜はストレス克服の大敵だと心得てください。

さらに、「(小さな)達成感を覚える」。これもストレス解消の妙薬です。何かひとつ仕事をこなす。すべきことを少しだけでいいからやる。するとストレスもひとつ減るのです。脳には報酬系と呼ばれる神経系(ドーパミン神経系)があり、なんらかの欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが予想できるときに活性化して、その人に「快」の感覚を与えることが確かめられています。ひとつのタスクやミッションを果たすと報酬系が働いて、私たちは快さ、心地よさを覚える。それがストレスの解消にも結びついていくのです。

複雑でたいへんだと思える仕事の一部でも実際にこなしてみると、こなした以上の達成感を覚えて気が楽になり、先の見通しも立つことがあります。作家が長編小説の最初の1行を記すことで視界が開けるような感じです。それは脳の報酬系が小さな達成感を通じて快を生み、その快の感覚がストレスの一部を消化してくれる。こういうメカニズムが働いているのだと思います。

※本コラムは、『健康はあなたの体が知っている』(サンマーク出版)を一部抜粋・編集したものです。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎