院長コラム

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Doctor’s Column

がんは「切って終わり」ではない…再発予防の重要性 2020/4/24

医者がいう「手術ですべて取り除きました」の本当の意味

病院を舞台にしたドラマが近年増えています。手術のシーンで、執刀医が手術室から出てきて、待っている家族にニッコリと「成功しました」と告げる、そんな展開もよくあるものです。そうしたテレビ番組の影響があるのかわかりませんが、がんにたいしても「手術で切ってしまえばおしまいでしょ」という人がいらっしゃいます。

実は医療用語にも「治癒切除 」という言葉があります。文字だけ見ると、あたかも「治癒=完全に治った」イメージを持たれがちです。

しかし残念ながら、がんはそうたやすい相手ではありません。

ここで医師がいう「すべて取り除きました」「治癒切除しました」の意味は、「目に見えるがんは、すべて取り去りました」という意味なのです。

具体的には肉眼で見える範囲および、切断面を顕微鏡で観察してがん細胞が取り切れていることが確認できた状態です。手術では通常、この治癒切除が目標となります。

しかし、手術前にすでに原発巣(がんが最初にできた場所)を離れ、がん細胞が遠くへ運ばれている可能性があります。そのため、治癒切除=治癒とはいえないのです。

進行すると、全身に「再発の種」がまかれてしまう

がんは大きく「早期がん」と「進行がん」に分けることができます。早期がんは簡単にいえば、できた場所にとどまっているがんのことで、進行がんは文字からイメージされる通り、大きくなってできた場所の周辺からさらにその外側へ広がったり、深くなっていったりしているがんです。

がんをタンポポの綿毛に例えると、早期がんは茎の先にぎっしりと綿毛がついているものの、まだ飛んでいかず、茎の先にとどまっている状態です。

これにたいして進行がんは、綿毛が飛んでいく状態といえます。ひとたび茎から離れると、どこへ運ばれていくかはひとつひとつ違いますし、つきとめようがありません。それと同様に、がんも広がりはじめると、やがて血液やリンパにのって体中をめぐるようになります。そしてあちらこちらにがんの種をまいてしまうというわけです。

種がやがて芽を出すように、がん細胞もいきついた場所で増殖しはじめれば、再発に至ってしまいます。どこで増えはじめて再発するかは、目で見ることはおろか、検査をしても事前に把握することはできません。

手術とは、たとえるならこの綿毛のついたタンポポを引き抜くようなものです。抜いてしまえば、確かに地面にはなにも残りません。しかし、綿毛がわずかでも飛びはじめてしまった状態だとしたら、その綿毛まで手術で回収することはできません。地面のそこらじゅう、あるいはかなた遠くまで綿毛がとんでいき、種が運ばれてしまっている可能性があるからです。

がんも、完全に局所にとどまっていて、浸潤しておらず(周囲に広がっておらず)、転移がなければ手術だけでも完治が見込めますが、それが少しでも怪しいとなれば、全身にタンポポの綿毛、すなわちがん細胞がめぐっている可能性があるので、手術で切っただけでは治らないのです。

5年生存率から読み取る再発リスク

がんの治療効果を判定するデータのひとつに、5年生存率があります。診断から5年経過したあとに生存している患者さんの割合を示したものです。

多くのがんで、5年経過すればその後の再発の可能性は低くなるため、5年をひとつの区切りとしています。

5年生存率はあくまで5年経った時点で存命している人の割合なので、たとえば手術を受けたががんが取り切れず、別の治療を受けながら生きている人も含まれていますし、手術ができず別の治療を受けて5年生存している人もいるなど、治療内容はさまざまです。

そのため一概にはいえませんが、仮にあるがんのステージ3での5年生存率が60%だとしたら、残り40%のなかに5年以内に再発して残念ながらお亡くなりになったというケースも含まれている、と考えられます。

下記に一例として、日本人に多い胃がんの5年生存率を紹介します。

[図表]胃がん5年生存率

全国がんセンター協議会「全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率 2009-2011年診断症例」より

 

たとえば胃がんのステージⅡでは、原則的に手術が治療の第一選択になります。しかしこの数字が示すように、3割強、3人に1人は再発等により亡くなっているといえます。このことからも、たとえ手術自体は成功し、目に見えるがんはすべて取り除いたとしても、再発してしまうケースが少なくないということがご理解いただけると思います。

がんの診断や治療法は目覚ましい発達を遂げていますが、それでもひとたびがんにかかると、長い付き合いを覚悟しなければなりません。がんと診断されたのち、治療がひと段落してほっとする気持ちはよくわかりますが、その先に待ち受けているかもしれない「再発」をいかに予防するかが、がんに克つための非常に重要なポイントといえるでしょう。

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎