院長コラム

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Doctor’s Column

「食事のあとに血圧が上がる」は本当か? 2020/3/25

交感神経が優位だと血圧は上昇する

一般に、食事をすると消化・吸収によって心臓から送り出される血液量(心拍出量)が増えるので、血圧は上がるといわれています。私の患者さんの中にも、「食事をしてすぐに病院に来たから血圧が高くなっている」と、いう人がいます。

私自身も高血圧ですが、食後に血圧が上がっていると感じたことはありません。これには個人差があると思いながらも、ずっと気になっていました。

そもそも血圧は、自分の意思ではコントロールできない自律神経に支配されています。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、両者は「促進」と「抑制」という拮抗関係にあります。交感神経が優位になると、体は興奮状態になって血圧が上昇し、心拍数も上がり、胃は弛緩して消化管の蠕動運動を抑えます。

これとは逆に、副交感神経が優位になると、体はリラックス状態になって血圧は下がり、心拍数も落ちつき、胃は収縮して消化管は蠕動運動を促します。したがって、食後は食べた物を消化・吸収するために副交感神経が優位になるので、血圧は下がるはずなのです。

このとき、そこで、食後に血圧は上がるのか、それとも下がるのか、1週間きちんと測定して確かめてみることにしました。その結果、やはり食後の血圧は下がっていたのです。

食事中は約700㏄の水分が胃液に使われるため、血液中の水分が少なくなる

実は、食べたあと、私たちの体は軽い脱水状態になります。これは、血液の一部が胃に取られてしまうためです。
食後は消化・吸収のために血液が消化管の近くに集まってきています。胃の中では食べた物を撹拌するのに必要な胃液を分泌していますが、胃液は血液中の水分からつくられています。つまり、胃液に使われる分、血液中の水分が少なくなるわけです。だいたい700㏄の水分が使われます。

この700㏄という数字は、私の専門分野である透析中のモニターから割り出されました。昔は、どのクリニックでも透析中に食事を出していました。すると、若い患者さんにはほとんど影響がありませんが、高齢の患者さんが食事をしながら透析をしていると、血圧が極端に下がるなど不安定になることがよくあったのです。

透析中は除水をしていくので、だんだん血液は濃くなります。そこで、どこまで濃縮したら血圧が下がってしまうかをモニターで調べたところ、食事後は除水していないにもかかわらず、血液が濃縮されることが分かりました。食事によって胃液が分泌されると、その分の血液が取られて濃くなってしまうのです。その値は700㏄ほどで、これはどこのクリニックでもほぼ同じくらいの量になることから、腎臓の専門医の間では常識となっています。

したがって、食後は血圧が上がるというのは間違いです。高血圧の人でも一時的に20~30 くらいは血圧が下がります。そのため、食事をしたあとに席を立つと、めまいや立ちくらみを起こす人がいるほどです。これは、急激に血圧が下がったためです。このような状態を医学的には、「食後低血圧」といいます。

一般に食後低血圧は、自律神経の機能が低下しやすい高齢者に多くみられますが、高血圧や糖尿病に伴う神経障害、パーキンソン病などの人にも起こりやすいので要注意です。

ですから、食後すぐに入浴することも避けたほうが良いでしょう。すでに血圧が下がりぎみのところで入浴すると、副交感神経の働きで血管が開き、さらに血圧が下がってしまいます。血圧が下がることで風呂場で転倒したり、ときには気絶したりすることがあり、湯船に浸かっていたら溺れて命を落とす危険もあります。

 

食事のあとに血圧が上がる?

→ ウソ

習慣にしよう!

  • 食後は誰でも血圧が下がります。すぐに運動したり入浴したりせず、しばらくは消化・吸収の時間と思ってゆっくりとくつろぎましょう。血圧を測る場合は、食後40~50分経ってからがベストです。
  • 高血圧の人は、食後の血圧が下がっているから改善したと勘違いしないよう注意しましょう。
この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎