院長コラム

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Doctor’s Column

「天然塩なら多く摂っても血圧は上がらない」は本当か? 2020/3/25

しばしば繰り広げられる「精製塩 vs 天然塩」の論争だが…

いまや高血圧の原因として「塩分」は代表格です。もちろん私も塩分をかなり控えていますが、塩の話をするとよく精製塩と天然塩の論争になります。天然塩にはミネラルが豊富に含まれているので健康に良く、精製塩はナトリウムだけなので体に悪いというのです。そこで、果たして本当に天然塩なら摂り過ぎても血圧が上がらないのかを確かめるために、3日間塩分を気にすることなく、むしろ積極的に天然塩を使った味の濃い食事をしてみました。塩味の焼き鳥、野菜炒め、ピザ、ちゃんぽん(スープも飲み干す)、漬け物などのメニューで3日間を過ごしたのです。

すると、日頃は降圧剤を服用して上が120台、下が70~80で安定していた血圧が、天然塩を摂り過ぎた翌日は薬を飲んでも上が138、下が96と見事に数値が上がっていたのです。これが3日間続いたので、やはり天然塩も摂り過ぎれば血圧は上がるといえます。

したがって、降圧剤を服用しているのに血圧が高い人という人は、薬の効き目を阻害するほど塩分を摂り過ぎている可能性があります。なかには塩分に対する感受性の低い人もいるので一概にはいえませんが、恐らく多くの場合で塩分を摂り過ぎると血圧は上がると思われます。

ところが、高血圧の患者さんは、口をそろえて「塩分は摂り過ぎていない」と言います。それもそのはず、長年の食習慣で濃い味つけに家族で慣れてしまい、それが「普通」になっているので味が濃いという自覚がないのです。そのため、家族で高血圧のケースが多いので、いつもの味付けを他人に客観的な立場で評価をしてもらうことも必要です。

実際に、薄味に慣れている私は、外食をするときや知人宅で食事をごちそうになるとき、「味が濃いな」と感じることが多々あります。

塩分は体内の水分を集めて血液量を増やす

では、塩分を摂り過ぎると、なぜ血圧が上がるのでしょう。それは、体内の塩分濃度を一定に保つために体液量が増えるからです。つまり、体は水分を増やして塩分濃度を薄めようとするわけですが、それだけ血液量も増えるので心臓が勢いよく血液を送り出すようになり、血圧が上がるという仕組みです。体内に水分が増えれば当然、体はむくんできます。したがって、汗をかいたり運動をしたりしたときを除いて、塩分の摂り過ぎには注意したほうが良いでしょう。

塩分を控え過ぎると「低ナトリウム血症」(血液中のナトリウム濃度が低い状態)になるので、かえって健康を損ねると指摘する声もあります。

しかし、私の経験からいうと、低ナトリウム血症になる人は、ほとんどの場合で食の細い高齢者や汗をかいても塩分を補っていない人です。日常の食事で塩分を1g以下にできる人はいません。ある程度は摂取しているものなので、塩分は意識して控えるくらいで丁度良いと思います。塩分を体外に排出できずに溜めてしまうと血圧は上がった状態になります。

また、塩分の摂り過ぎは、胃がんのリスクを高めることにもつながります。注意するに越したことはありません。
余談ですが、このおかげで命拾いした人たちがアメリカに大勢います。

アフリカから奴隷船でアメリカに連れて来られた黒人たちです。

彼らの先祖は奴隷船の中で、過酷な環境に耐えることを強いられていたことは想像に難くありません。大半の人は体内の塩分が排出されて低ナトリウム血症となり、脱水で命を落としたと思われます。それでも環境に耐え、体内に塩分を蓄えることで生き延びた人たちが、無事にアメリカの地を踏めたのでしょう。この生き延びた人たちの子孫は、生命力が強い一方、塩分に対する感受性の高い遺伝子を受け継いでいるので、現在は高血圧になっているケース※が多いのです。

 

天然塩なら多く摂っても血圧は上がらない?

ウソ

習慣にしよう!

・ 日頃から塩分量を意識した食事をしましょう。薄味に慣れても、食べる量が多ければトータルで塩分の摂り過ぎになるので食べ過ぎは禁物です。
・ 暑い日に汗をかいたり運動をしたりしたときは、逆に体内の塩分濃度が下がっているので補いましょう。熱中症予防につながります。

※参考文献
T. W. Wilson et al., Biohistory of slavery and blood pressure differences in blacks today. A hypothesis, Hypertension, 17(1 Suppl), I122-8,1991

この記事の執筆者 院長 永野 正史

三井記念病院内科腎センター勤務、敬愛病院副院長を経て2003年 練馬桜台クリニック開業。

山田太郎